実践・考察

「こどもたちが、自ら見つけ、考え、遊ぶ、余白のある環境」 をテーマに、
こどもたちを取り巻くヒト・モノ・コトの環境について研究、考察します。

余裕の大切

前回の投稿で、「赤ちゃんは泣くのが仕事」というテーマを書きました。
それについて、子育て中のお母さんから「私は当時そんな余裕がなかったから、そんなこと言われても素直に受け入れられないかも」という感想をくれました。
その通りだとも思いますし、これは大切なポイントだと思ったので、もう少し整理しようと思います。

 

余裕って本当に大切だなと思います。
前回の「赤ちゃんは泣くのが仕事」という話も、それを笑って受け止められるのは、余裕があるからなんですよね。
余裕がなければ、そうは思えない。

 

それじゃあ、なぜ親には余裕がないのか。
今回はそれを整理しようと思います。

 

まず、親として未熟ということはもちろんありますよね(僕自身もそうです。)
でもそれに関しては、誰しも最初からできるわけじゃなく、みんな試行錯誤しながら少しずつ親になっていくのでしょうから。
そういう意味で余裕がないのはしょうがないし自然なこといっていいのかもしれません。
ですが、余裕って、実はこれだけではありません。
他にももう少し考えてみましょう。

 

余裕の生まれるまず第一は、人でしょう。
ママやパパが一人でピンチのとき、気軽に助っ人になってくれる人が家族なり、友人なり、地域の人なり、近くにいれば(物理的な距離だけでなく精神的な距離も含めて)それによって生まれる余裕があるでしょう。

 

つぎに、知識や経験。
こどもが泣いたりしたときに、その理由や思いを汲み取り、どんなサポートができるかというのは(見守ることも含めて)経験や知識があるほど多くなるでしょう。

 

じゃあ、そういう知識を学びたいと思っても、すでに余裕がない状況では、ゆっくり本を読んだりすることもできませんし。
じゃあ、身近に教えてくれる人がいるかというと、そういう人や地域とのつながりも今は少ない。
それで、ネットの動画検索というのは自然な流れかもしれませんね。

 

続いて三つ目は、少し質が違いますが、睡眠というのもあると思います。
赤ちゃんの眠りが安定するまでは、なかなか親も(特に母親は)まとまった睡眠をとることができません。
そうなると人によってはものすごく辛い。
我が家でも上の子が0歳の時は「眠すぎて、冷静に頭がまわらない」とよく話していました。

 

四つ目はシンプルに「悩みがある」ということ。
仕事や家族、健康の悩みなど子育て以外の悩みがあれば、それによっても子どもに向かう余裕はなくなりやすいものです。
さらには「価値観」による余裕の有無というのもあるでしょう。
価値観といっても色々ですね。
中でもとくに影響が大きいだろうと思う一つが「子育て観」です。

 

例えば、赤ちゃんが泣いている姿に対して
・赤ちゃんが泣いたら、すぐになんとかしなきゃいけない。それができないのは親の責任。

 

という価値観の人と
・赤ちゃんが泣くことも、コミュニケーションの一つ
という価値観の人では
泣いている姿に対して、自分の余裕は変わってきます。
もう一つ影響の大きな価値観は「仕事観と社会観」でしょう。
例えば、日々子育てをしていると、自分が社会とつながっていない気がするとか。
周りの友人たちは仕事で活躍しているのに、自分は子育てに追われていて、引け目を感じてしまうとか。そうした考えによる余裕のなさや焦り、そういう話もよく聞きます。
本来は、仕事をするのも子育てをするのもどちらも大変だし、どちらも大切な役目だし、それぞれ素敵!で、いいはずなんですよね。

でも、そうはいられない。
なぜか。

 

それはおそらく、新自由主義爆進中の今、世間に流布されている価値観の中心が「家事や子育てよりも、仕事をする方が社会的な価値が高い」という考えだからでしょう。(こうした価値観は直接的に広められているわけではありませんが、巷で聞こえる美しい言葉やテレビやネットのキラキラしたニュースやドキュメント風番組の中にぬるっと込められています。)

と、こうして整理した理由も、まだほんの一部であって、まだまだある。
さらには、それぞれの理由が一つではなく、混ざり合って余裕の有無をつくりだしている。

 

ですから、ひとくちに「余裕」といってもその背景はさまざまなのです。
そして、理由が何であれ、余裕がなければ、それどころではなくなってしまう。
そして余裕の有無で、物事の受け取り方は真逆にもなる。

 

今回でいえば子育てやこどもの泣くことに対しての考え方は、余裕があればポジティブに見えるし、余裕がなければ同じ内容でもネガティブに見える。

 

こうした逆転は子育てだけではなく、保育現場でもあります。
僕の研修では、実践事例をもとにお話するようにしているのですが、中には
「理想としてはわかるけど、うちの園にはそんな余裕がないから無理だ」
という感想をいただきます。
これもその通りだと思います。
だからこそ、ここで一度立ち止まりたいんですね。

 

余裕がないと、ついその考えや実践自体を否定的に捉えそうになります。
でも、ほんとうは、余裕がなくて受け入れられないことは、イコール、考え方や実践が合っていないということではない。
余裕がない状況というのは、是非を判断するよりもそれ以前の話なんです。
だから
余裕がない時に一番大切なことは、少しでも余裕をつくること
これが大切です。

 

その余裕は、人なのか、学びなのか、経験なのか、仕組みなのか、価値観なのか、人によって、現場によって違いますが
少しでも余裕をつくること。
しかし、、
余裕がない本人が一人でそれをするのは難しい。

 

だからこそ、こんな風に整理して、子育てや保育、教育現場の人たちが、余裕の有無の背景とその作り方を共有することは、大切なことなのだと思います。

 

そこから、一人で、二人で、みんなで、余裕を増やしていく。
それは時には自分の成長につながっているし、
時には社会の現況の仕組みやお金の使い方えを考え、動かすことにつながっているし、
時には社会のおける価値観を増やしていくことにつながっているのだと思います。

 

最後にもう一度。
なぜ余裕をつくることが大切なのか。
それは、
余裕の有無で、同じ考えや実践でも、その受け取り方はプラスにもマイナスにも変わるからです。

ということで、余裕を作ることは子育て、保育、教育の現場にとって重要な鍵だよねという話でした。

今回も長文にお付き合いいただき、ありがとうございます。
読みながら、「そうそう。私も、一つでもその鍵を開けたいんだよ」という方、一緒に何かできるといいですね。
研修、講演、ワークショップ、原稿、企画などなど、気軽にお声がけください。

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